西方にも仏像伝播 イランで確認

 パキスタンのガンダーラ地方で生まれ、中国など東方に伝わったと考えられてきた仏像が、古くから西方のイランにもあったことがわかった。イラン文化遺産庁が最近発見し、樋口隆康・京都大名誉教授(考古学)が現地で確認した。従来、仏像の西への伝播は分かっておらず、樋口さんは「こんなに西にも古い仏像があったとは驚きだ。これで仏教は早くから西へと広がったことが考えられ、ガンダーラ起源説に疑いもはさめる」としている。
 イラン国立考古博物館によると、イラン文化遺産庁の研究者がファールス州内の古代遺跡で発見した。同地はガンダーラの西約1700km。仏像はこれまでアフガニスタン東部などでも見つかっているが、それより西方では初めての発見だ。
 出土したのは、仏頭や、仏教独特の指の組み方で徳を表した体の部分計19体。白色が基調のしっくい(スコット)製と粘土製があり、高さは5〜20cm。一部に着色したり、焼いたりしたような跡もある。顔にほとんど損傷はない。
 樋口さんによると、ギリシャ風と、東西の要素が融合されたものとがあり、北部インドで西暦1〜3世紀に隆盛を誇ったクシャン朝時代の特徴を持つ遺品という。
 仏像は仏陀の入滅後約500年の2世紀初めごろ、ガンダーラやインドのマトゥーラでつくられ始めたというのが定説だった。西から伝わったギリシャ風彫刻の技法の影響で完成したとされる。
 これまで歴史学界では西からの文化的影響が優勢だと考えられており、逆方向への流れは念頭になかった。今後の研究の進展によっては、仏教の伝わった経緯など、新たな学説が生まれる可能性がある。

樋口名誉教授「興奮した」

 「なぜ、こんなに多くの仏像が・・・」
テヘランの中心部にあるイラン国立考古博物館の収蔵庫。日頃、冷静な言動で学者仲間にも知られる京都大名誉教授の樋口康隆さん(82)がその瞬間、言葉を失った。新発見のイラン出土の古代仏像群に出会い、「久しぶりに興奮してしまったよ」と何度も繰り返した。
 樋口さんはイラン文化遺産庁から、博物館の陳列室に飾る前の出土遺品についての全般的な助言を求められ、特別に収蔵庫で観察。はじめ金製の剣や銀製品、彩色のある土器などに交じって、棚の片隅で小さな仏像の頭部があるのを4月末、一体見つけ出した。
 「どうも、気になる・・・」ホテルに戻ってからも樋口さんはつぶやく。そして3日後、ほかの遺跡視察などのスケジュールをさいて再確認。計19体もの仏像の頭、体部との対面が実現した。

                      2002年5月13日 -朝日新聞朝刊より-

index