復興大伽藍(8) 小さな力、大きく開花
 落慶待つ薬師寺大講堂

 薬師寺の伽藍(がらん)復興は、人々の写経勧進で実現した。高田好胤・前管長が、限られた人の多額の寄付や企業の宣伝費を使った寄付ではなく、一般の人々の心のこもった写経勧進で実現させることこそが仏教精神にかなうと信じたからだ。般若心経を1巻納めるごとに2000円。その積み重ねで大伽藍を復興させた。「100万巻写経勧進」を目標に掲げてスタートしたが、これまでに集まった写経勧進は700万巻を超える。
 1人で何百、何千もの写経を納める人も少なくない。108巻納経すると、寺から輪袈裟を授かる。倍の216巻を納経すると、肩衣を授かり、寺の行事などの際に管長から直接手渡される。これを励みにまた写経に精進する。同寺の写経道場には、写経に励む人々がいつも集っている。仏縁を求める多くの人々の心のよりどころとなっている様子がうかがえる。

 奈良市元興寺町の会社役員、増尾正子さん(77)も、30年以上前から写経を続けている。今は元気に家業を営んでいる長男(55)が、大学在学中に心臓を患った。当時は重病とは知らなかったそうだが、入院中の長男に般若心経を渡して写経を勧めた。
 後日、長男から便せんにボールペンで書いた写経10巻を渡される。「一生懸命書いた写経だから」と扱いを考え、薬師寺に納めた。このあと、長男は退院。知人の医者に難しい病気だったと知らされ、あらためて安堵したという。
 「写経をすれば何かが得られるというように、仏さまに見返りを期待するのは嫌です。仏さまはただ尊敬するものだと思う。でも、心を落ち着けて平静にいるうちに、自然に状況が良くなっていくのではないでしょうか」

 早くに両親を亡くした増尾さんは、両親の菩提を弔う気持ちで写経を続けてきた。「写経をしていると無心になることができる。この世ははかないもので、モノが豊富にあっても幸せではないが、心豊かに生きることができれば幸せだという般若心経の教えが心に入ってくる。感謝の気持ちが生まれてきますね」

 大講堂の上棟式のときに216巻を納経した記念の肩衣を松久保秀胤管長から授かった。「写経をすることで功徳を積むことができる。字が下手なので初めはためらっていましたが、簡単に写経ができることを教えていただいて、本当によかった」

 ひとりひとりの写経で大伽藍が復興できたことについて「聖武天皇が一枝の草、ひと握りの土を持って協力せよと述べて、庶民の力で大仏造立を実現させたのと同じで、ひとりひとりのわずかな力を結集させて素晴らしい伽藍が復興できた。少しの力でも役に立つことができ、功徳を積むことができたということに感謝しています」。

                      2003年3月20日 -奈良新聞 より-

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