阿修羅様なぜ赤い 謎に迫った

 天平彫刻の傑作とされる興福寺(奈良市)の国宝・阿修羅像(734年)が、地元産のニレの樹皮を混ぜた木屎(こくそ)漆という素材で造られた可能性があることが、わかった。従来は県外の沿海部などに多いタブノキの樹皮を用いたと推定されていたが、奈良にごく自然に生えている植物を利用していたらしい。

 愛知県立芸術大の山崎隆之名誉教授(日本彫刻史)と京都造形芸術大の岡田文男教授(文化財科学)が、12月中旬に奈良市であった研究集会で発表した。

 阿修羅像は高さ153.4センチで、麻布を漆で何層も塗り固める脱活乾漆造(だっかつかんしつづくり)という技法で造られている。山崎名誉教授らは今年3〜9月に東京、福岡で催された「国宝 阿修羅展」に合わせ、2008年から5カ月間かけて、ほぼ実物大の上半身模型(高さ約1メートル)を実験で制作した。

 唐招提寺(奈良市)の金堂の本尊で、同じ脱活乾漆造で造られた盧舎那仏坐像(るしゃなぶつざぞう)(8世紀、国宝)から剥落(はくらく)した木屎断片を入手。顕微鏡観察で素材を調査した。その結果、方解石の結晶を確認した。方解石は、人体の結石と同様に、吸収しきれない成分が結晶化して内部に残るもので、ニレ科の落葉樹の内部に特有のものとわかった。

 山崎名誉教授らは、ニレの樹皮と水、漆を混ぜたニレ木屎を調合し、阿修羅の模型を制作すると、天平時代の乾漆像と同じ赤っぽい発色になった。乾きやすい難点はあったが、粘り気があって自由な成形ができたという。

 これまではクスノキ科の広葉樹で、海岸域に多いタブノキの樹皮の粉が、粘着性が必要な線香の素材に使われてきたことから、木屎の材料と推定されていた。しかし、乾燥後に割れやすいことなどが欠点だった。
ニレは奈良時代に紙すきの粘着材や食材として用いられたことが知られている。奈良では現在も興福寺のある奈良公園などに見られ、古くから存在した可能性がある。

 山崎名誉教授は「ニレ木屎は成形しやすい素材で、乾いても縮まない。阿修羅など興福寺の八部衆・十大弟子像も唐招提寺の盧舎那仏と同じ材料を用いた可能性は高く、天平の技法を解明する手がかりが得られた」と話している。
(編集委員・小滝ちひろ)



                    2009年12月24日 -朝日新聞 より-

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